映画『死んでもいい』
WOWOW初放送★
勝手に協賛企画
死んでもいいとも放談
<その4>
公式ファンサイト「石井隆の世界」の運営スタッフ二人が
映画『死んでもいい』の見どころを紹介します。
僭越ながら、WOWOW初放送を観るときの参考にしていただければ、と。
あくまでも、運営二人による私感、私見であることをご了承ください。
最後まで
お読みいただき、ありがとうございました。
映画『死んでもいい』(1992)
WOWOW放送予定(2023.11.13初放送ほか)
斎藤工×板谷由夏
「映画工房」#617
オンデマンド配信(2023.11.17終了)
KICO
(Web連絡係)
WOWOWの「映画工房」#617でも語られたけれど、
最後に映画『死んでもいい』の見どころを紹介しておこうか。
はたぼー
(Web維持管理係)
番組の中で語り切れなかったところを含めてね。
KICOのマイフェイバリットって、実はこの映画『死んでもいい』なんだよね。
KICO
そう、前からプロフィール欄で書いてるでしょ。
はたぼーよりこの作品が好きだったはずなんだけどね〜。
はたぼー
それじゃ、あらためて簡単に作品紹介からしておきましょう。
KICO
1992年公開の日本映画。
原作は西村望さんの小説「火の蛾」。
脚本・監督は石井隆。
ヒロインの名美に大竹しのぶさん。
名美の不倫相手、信に永瀬正敏さん。
名美の夫、英樹に室田日出男さん。
その他詳しくはフィルモグラフィの『死んでもいい』紹介ページへ
はたぼー
マイフェイバリットなんだから、先にKICOから「ここを観て欲しい」っていうシーンを教えて。
KICO
玄関の郵便受けから信の手だけが伸びて来て、必死で名美に触れようとするシーンですね。
はたぼー
どしゃ降り雨の深夜、突然「決行」の合図にワンギリの電話がかかって来るところから空気が変わるよね。
KICO
まだ携帯電話がなかった時代だからね。
家の電話のベルが鳴っただけでドキッとしたり、意思が伝わる。
はたぼー
そういうことにリアリティがあった時代なんだよね。
KICO
LINEとか、SNSとかで簡単につながっている現代では、成立しないドラマだよ。
はたぼー
この映画が撮られたのは、やっとポケベルを使い始めた頃だもんね。
KICO
雨の夜、信は名美に、英樹を殺す計画を決行する合図にワンギリ電話をして来た。
ほどなく、夫を殺しに名美の元にやって来る。
はたぼー
しかし名美は頑なに玄関を開けないから、ドアの向こうにいる信は入って来れない。
KICO
すると郵便受けの隙間から、突然信の手が伸びて来て、ドアの陰に立つ名美の手を掴もうと必死でまさぐる。
「帰って、今夜はダメよ」
はたぼー
ホラーチックだけど、とっても切ない。
KICO
そして信の手が、まるで強く抱きしめるように名美の手を掴んで離さない。
「明日は主人とホテルへ」
その言葉を名美が計画を実行するために仕組んだ作戦だと思って信の手がすっと、郵便受けから消えていく。
顔や体は見えないのに、手だけで感情をパントマイムのように見せるお芝居が秀逸なの。
はたぼー
いやぁ、あの時の永瀬さんの「手」のお芝居は神がかってる。
KICO
「違うの、違うのよ」と戸惑う名美をよそに、信の気配は失せて…。 そこに激しい雷鳴が響く。
はたぼー
あれは撮影中に外から聞こえてきた本物の雷鳴が、そのまま使われたそう。
KICO
まるで神からの啓示とも取れるような雷鳴。
はたぼー
現場の緊迫したお芝居が起こした奇蹟なのかも知れないね。
KICO
次に、はたぼーのイチオシは「映画工房」#617で紹介した運河のシーンだね。
はたぼー
番組で話した内容のおさらいになるけどね。
久しぶりの再会、運河の浮桟橋や貯木の上を歩く二人(名美と信)の足が スクリーンの上から (キャメラを跨いで)ドスンと降りてきて、前へと歩いていく後ろ姿をそのまま(キャメラマンが立ち上がって)追いかけていく。
KICO
あのシーン、よ〜く見ると、水に浮かんだ木の上を歩いているから結構な具合に足元が揺れてるのよ。
はたぼー
キャメラマンやそのアシスタント、さらに録音部や照明部も、最低限の少人数で二人の後を追いかけて歩きながら撮っていたんじゃないかと思うんだよね。
KICO
まさに一発勝負のワンシーン・ワンカット撮影だったはずよね。
はたぼー
おかげで浮木の揺れ具合と手持ちキャメラの揺れ具合が 絶妙に二人の心模様を映し出しているみたい。
ワンシーン・ワンカットと広角ローアングルを使った石井演出の極致とも言えるシーンになってる。
KICO
不安定な足元の中で追いかけていくスタッフの皆さんは細心の注意が必要な局面だよ。
誰か一人でもつまずいたら、大竹さんと永瀬さんの渾身のお芝居が台無しになる…無用に浮木を揺らせない、足音も出せない状況での一発勝負。
はたぼー
そんな中でね、石井監督は「名美と信のサンダルの音だけは生音を使って、二人の感情を伝えたい」って、録音部さんにお願いしたと言う話を監督本人から聞いたよ。
KICO
追いかけていくスタッフからしたら、そこは後入れの効果音にして〜って心の中で思っただろうね。
はたぼー
「そばの道路を通るトラックの音とか、雑音が入ってもいいから、生音で」って。
たぶん名美と信が歩いていく先々にマイクを仕込んだり、録音部さんが物陰に隠れて音を拾ったんだと思うけど。
KICO
こうした石井組スタッフの結束や技術力が、完成度の高い作品作りを支えたんだね。
はたぼー
そういうことを念頭に観ると、あそこは余計にグッと来るシーンになると思うよ。
KICO
ところで大竹しのぶさんの「名美」はどう思う?
はたぼー
原作劇画の「名美」はロングヘアというイメージが強い。
でも『死んでもいい』ではミディアムヘアの大竹さんが演じたので「名美」に見えないという声は多かったよね。
それまでの映画化では、原作劇画のイメージに寄せたキャスティングが多かったから。
KICO
そういう声があることに、石井監督は後年になっても残念そうにしてた。
毎日映画コンクールも、キネ旬ベスト・テンも、その年の主演女優賞だったのにねって。
はたぼー
公開当時はまだ、一世を風靡した劇画の中の「名美」のイメージは強烈に残っていたからね。
KICO
でもね、石井脚本に描かれた(映画として撮りたかった)「名美」という女性キャラクターの精神性(=石井監督自身が持つイメージとのシンクロ率)で言えば、歴代「名美」女優さんの中でも最高純度の演技をしてくださったのが、大竹しのぶさんだったように思うんだけど。
はたぼー
まさに「名美」の魂が乗り移った演技というか、大竹さんが「名美」の魂に帰依し演技というか、ね。
KICO
時代が一周回って、劇画の中の「名美」のイメージを知らない人たちがほとんどの今、この映画はどう観られるんだろうね。
はたぼー
今あらためて、大竹さんの演じる「名美」はどのように目に映るのか。
「石井隆」という映画監督の世界観がどういう反応を起こすのか。
KICO
今回のWOWOW初放送で、初めての「石井隆」、初めての『死んでもいい』に出会って欲しいよね。
はたぼー
久しぶりの「石井隆」、久しぶりの『死んでもいい』に出会う人にも、新しい気づきを見つけてもらえるといいな。